『ビットコインバイブル』レビュー──サトシ・ナカモトの言葉を直接読む
TL;DR
- サトシ・ナカモトの論文、メール、フォーラム投稿を収録した原典資料集
- ビットコインの設計思想を創始者自身の言葉で理解できる
- 二次情報ではなく一次情報に触れたい方に最適
著者:サトシ・ナカモト(編纂)
サトシ・ナカモトの「聖典」
「ビットコインバイブル」という大胆なタイトルが示すように、本書はビットコインの創始者サトシ・ナカモトが残した文章を集めた、いわば「原典資料集」です。ホワイトペーパー、メーリングリストへの投稿、ビットコインフォーラムでの発言──これらがまとめられています。
サトシ・ナカモトは2008年10月31日にホワイトペーパーを発表し、2011年頃に姿を消しました。その間に残された文章は、ビットコインの設計思想を理解するための貴重な一次資料です。
読んだ当時の感想
以前紹介した書籍「ビットコインバイブル」によると、9年前、以下のメールが暗号学のメーリングリストにポーンと送られて来たそうです。
2017年10月31日、ビットコインが9歳の誕生日を迎えた日に、私はこの本を手に取りました。あの歴史的なメール──「I’ve been working on a new electronic cash system that’s fully peer-to-peer, with no trusted third party.」──が送られた日から9年。その言葉の重みを、原文で噛みしめたかったのです。
ホワイトペーパーを読み解く
本書の中核をなすのは、もちろんビットコインホワイトペーパー「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System」です。わずか9ページの論文ですが、そこにはビットコインのすべてが凝縮されています。
二重支払い問題の解決、プルーフ・オブ・ワーク、タイムスタンプサーバー──これらの概念が、数式と図解を交えて説明されています。本書には日本語訳も収録されているため、原文と対照しながら読み進めることができます。
サトシの問答集
ホワイトペーパー以上に興味深いのが、サトシがビットコインフォーラムで質問に答えた記録です。「取引履歴が改ざんされる恐れはないのか?」「スケーラビリティの問題は?」「51%攻撃への対策は?」──こうした疑問に対するサトシ自身の回答が収録されています。
これらの回答を読むと、サトシがいかに深くシステムの問題点を理解し、それでもなお「動くシステム」を優先したかがわかります。完璧を求めず、実用性を重視するエンジニアリングの姿勢が垣間見えます。
オーストリア経済学との共鳴
サトシの文章を読み進めると、そこにオーストリア経済学の影響を感じずにはいられません。中央銀行への不信、政府による通貨膨張への批判、健全貨幣への希求──これらの思想がビットコインの設計に反映されています。
特に印象的なのは、ジェネシスブロック(最初のブロック)に埋め込まれたメッセージです:「The Times 03/Jan/2009 Chancellor on brink of second bailout for banks」。イギリスの大蔵大臣が銀行救済を行おうとしているというニュース見出しが、ビットコインの最初のブロックに永遠に刻まれています。これは、既存の金融システムへの批判的メッセージに他なりません。
二次情報の限界
ビットコインについて書かれた書籍は無数にあります。しかし、その多くは著者の解釈を通じたものです。解釈には必ず歪みが生じます。「サトシはこう考えていた」という主張も、しばしば著者自身の思い込みが混入しています。
本書の価値は、そうした二次情報のバイアスを排し、サトシ・ナカモト自身の言葉に直接触れられる点にあります。「サトシが本当は何を言いたかったのか」を知るためには、結局のところ、サトシ自身の文章を読むしかないのです。
読む際の注意点
本書は入門書ではありません。ビットコインの基礎知識がないまま読み始めると、技術的な議論についていけない可能性があります。まずは他の入門書でビットコインの概要を把握した上で、より深い理解を求めて本書に挑戦することをお勧めします。
また、サトシの文章は2011年で途絶えています。その後のビットコインの発展──SegWit、ライトニングネットワーク、ハードフォーク論争──については、他の資料で補完する必要があります。
こんな方におすすめ
- ビットコインの設計思想を深く理解したい方
- 一次資料に直接触れたい方
- サトシ・ナカモトの思考を追体験したい方
- 他の書籍で物足りなさを感じている方
ビットコインを真剣に学ぼうとするなら、いつかは通らなければならない道──それが本書です。創始者の言葉を直接読むことで、ビットコインへの理解は一段と深まるでしょう。
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