『中央銀行が終わる日』レビュー──貨幣発行の独占が崩れるとき
TL;DR
- 元日銀マンが描く「中央銀行不要論」の衝撃
- ビットコインの登場が中央銀行の存在意義に突きつける問い
- 貨幣論の深い理解に基づいた、知的刺激に満ちた一冊
著者:岩村充
元日銀マンによる中央銀行批判
著者の岩村充氏は、日本銀行で金融政策に携わった経歴を持つ経済学者です。その元日銀マンが「中央銀行が終わる日」というタイトルの本を書く──この事実だけでも、本書がいかに挑発的な内容であるかがわかります。
岩村氏は中央銀行の内部を知り尽くしています。その知見に基づきながら、ビットコインという「外部からの挑戦」が中央銀行制度にどのような影響を与えるかを分析しています。
読んだ当時の感想
中央銀行の役割と限界を理解するために読んだ本です。ビットコインが既存の金融システムに与えるインパクトを、マクロ経済の視点から考えることができます。
ビットコインへの投資を始めた当初、私は「ビットコインとは何か」という技術的な問いばかり考えていました。しかし本書を読んで、より大きな問い──「なぜ中央銀行が存在し、それは永続すべきなのか」──に目を向けるようになりました。
貨幣発行権の独占
本書の核心は、貨幣発行権の独占という問題です。現代の中央銀行は、貨幣を発行する独占的な権限を持っています。この独占がなぜ成立し、それがどのような問題を引き起こしてきたかを、岩村氏は歴史を遡りながら解説します。
インフレーション、バブルとその崩壊、金融危機時の救済措置──これらの問題は、中央銀行による貨幣発行の独占と無関係ではありません。岩村氏は、この独占が持つ構造的な問題点を鋭く指摘します。
ハイエクの「貨幣発行自由化論」
本書で重要な役割を果たすのが、オーストリア経済学者フリードリヒ・ハイエクの「貨幣発行自由化論」です。ハイエクは1976年の著作で、民間企業による自由な貨幣発行を提唱しました。当時は「実現不可能な理想論」と見なされていましたが、ビットコインの登場により、その議論が現実味を帯びてきました。
岩村氏はハイエクの理論をビットコインに適用しながら、中央銀行の独占に代わる選択肢を検討しています。完全に中央銀行が不要になるわけではないが、その役割は大きく変化せざるを得ない──そのような見通しを示しています。
ビットコインの限界と可能性
岩村氏はビットコインを礼賛するわけではありません。むしろ、その限界についても冷静に分析しています。価格の不安定性、スケーラビリティの問題、エネルギー消費──これらの課題を認めつつも、ビットコインが提起した「中央管理者なしに機能する通貨」という概念の革命性を評価しています。
重要なのは、ビットコインそのものが成功するかどうかではなく、それが示した可能性です。国家に依存しない通貨が技術的に実現可能であるという事実が、中央銀行の存在意義を根本から問い直しているのです。
中央銀行デジタル通貨(CBDC)
本書の議論は、現在活発に議論されている中央銀行デジタル通貨(CBDC)の問題にも通じています。各国の中央銀行がCBDCの研究を進める中、「なぜ中央銀行がデジタル通貨を発行すべきなのか」という問いが重要になっています。
岩村氏の分析枠組みは、CBDCを評価する上でも有用です。中央銀行が発行するデジタル通貨は、ビットコインとは根本的に異なります。その違いを理解するためにも、本書は必読です。
マクロ経済学の視点
本書の特徴は、ビットコインをマクロ経済学の文脈で位置づけている点です。金融政策、通貨供給、インフレーション──これらのマクロ経済的なテーマとビットコインを結びつけて論じる書籍は、意外と少ないものです。
技術的な解説に偏りがちなビットコイン本の中で、本書は異色の存在です。経済学のバックグラウンドを持つ読者にとっては、特に興味深い内容でしょう。
読む際の心構え
本書は易しい入門書ではありません。貨幣論、金融政策、マクロ経済学についての基礎知識があることが望ましいです。しかし、その分得られる知的刺激は大きいでしょう。
ビットコインを「投資対象」としてだけでなく、「金融システムへの問いかけ」として理解したい方には、本書以上に適した本はないかもしれません。
こんな方におすすめ
- 中央銀行の役割と限界を理解したい方
- オーストリア経済学に関心がある方
- マクロ経済の視点からビットコインを分析したい方
- 金融政策と仮想通貨の関係を考えたい方
ビットコインは単なる投機対象ではありません。それは「お金とは何か」「誰がお金を発行すべきか」という根本的な問いを私たちに突きつけています。本書は、その問いに真正面から取り組んだ、稀有な一冊です。
関連書籍
※本記事にはアフィリエイトリンクが含まれています。書籍の購入により、当サイトの運営をサポートいただけます。