『デジタル・ゴールド』レビュー──ビットコイン誕生の物語を追体験する
TL;DR
- ビットコイン誕生から発展までを「物語」として追体験できるノンフィクション
- サトシ・ナカモト、シルクロード、マウントゴックス──歴史的事件の内幕が明かされる
- 技術書が苦手な方でも、小説感覚で読み進められる一冊
著者:ナサニエル・ポッパー(訳:土方奈美)
なぜ「デジタル・ゴールド」なのか
ビットコインはしばしば「デジタル・ゴールド」と呼ばれます。発行上限2100万BTC、中央管理者の不在、検閲耐性──これらの特性が、金(ゴールド)と同様の「価値保存手段」としての役割を担うと考えられているためです。本書のタイトルは、まさにこの本質を捉えています。
著者のナサニエル・ポッパーはニューヨーク・タイムズの記者であり、ビットコインの黎明期から綿密な取材を重ねてきた人物です。本書は単なる技術解説書ではなく、ビットコインという革命的なテクノロジーがいかにして生まれ、どのような人々によって育てられてきたかを描く、壮大なドキュメンタリーです。
読んだ当時の感想
大変面白くお勧めできる書籍です。仮想通貨の歴史や登場人物の関わりを、小説のように楽しく読み進める事が出来ます。
私が初めてこの本を手に取ったのは2017年の秋でした。当時はビットコインが10月末に9歳の誕生日を迎え、価格も急騰していた時期です。市場が熱狂する中で、「そもそもビットコインとは何なのか?」という根本的な問いに答えてくれる本を探していました。
物語として読むビットコイン史
本書の最大の魅力は、仮想通貨の歴史を「群像劇」として描いている点にあります。登場人物は実に多彩です──謎の創始者サトシ・ナカモト、シルクロードを運営したロス・ウルブリヒト、マウントゴックスのマルク・カルプレス、そしてウィンクルボス兄弟。彼らの野望、葛藤、失敗が、まるで映画を観ているかのように展開されます。
特に印象的なのは、サトシ・ナカモトが姿を消す場面です。ビットコインを世に送り出し、システムが軌道に乗り始めたころ、彼(あるいは彼ら)は静かに表舞台から去っていきます。その理由は今も謎のままですが、著者はその背景にある可能性を丁寧に推察しています。
シルクロード事件の内幕
本書で詳細に描かれるシルクロード事件は、ビットコインの「ダークサイド」を象徴するエピソードです。匿名性を武器に違法薬物の売買を行うこのマーケットプレイスは、ビットコインの評判を大きく傷つけました。しかし同時に、これは分散型通貨が国家の規制を超えて機能しうることを証明した事例でもありました。
著者は、この事件を通じてビットコインコミュニティがどのように葛藤し、成熟していったかを描いています。技術それ自体に善悪はなく、それを使う人間次第であるという、テクノロジーの本質的な問題が浮き彫りになります。
マウントゴックス破綻の教訓
2014年に起きたマウントゴックス破綻は、当時の取引量の約70%を占めていた取引所の崩壊という衝撃的な事件でした。本書では、経営者マルク・カルプレスの人物像や、取引所がいかにしてハッキング被害を受けたかが克明に記されています。
この事件が教えてくれるのは、「Not your keys, not your coins」という格言の重要性です。分散型の通貨であるビットコインを、中央集権的な取引所に預けることのリスクが、痛みをもって学ばれた出来事でした。
オーストリア経済学の視点から
本書を読み進めると、ビットコインの思想的背景にオーストリア経済学の影響があることに気づきます。中央銀行による通貨発行への批判、健全貨幣(Sound Money)への回帰、政府介入への懐疑──これらの思想がビットコインのDNAに刻まれています。
ハイエクが『貨幣発行自由化論』で描いた世界が、テクノロジーによって実現しつつある。本書はその可能性と課題を、バランスよく提示しています。
こんな方におすすめ
- 技術書は敷居が高いと感じる方
- ビットコインに興味はあるが何から読めばいいかわからない方
- 仮想通貨の歴史を体系的に理解したい方
- 投資対象としてだけでなく、思想としてのビットコインを学びたい方
本書を読めば、ビットコインが単なる投機対象ではなく、金融システムへの根本的な問いかけであることが理解できるでしょう。2017年の狂騒が過ぎ去った今だからこそ、冷静にビットコインの本質を学ぶ価値があります。
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